『 彼女の肖像 ― (2) ― 』
ある画家の懐古談
そうなんですよ、何年かしてから見直して。
ちょっと驚きました。 自分としては微笑みを描いたつもりでしたから・・・
え? いえいえ それは大丈夫、他人の筆は加わっていません。
知らず知らずにあんな表情を描いていたのでしょうかねえ・・・
自作ですが不思議な気がしていました。
§ すぴか と すばる ( 承前 )
「 ね! お母さんはさ いつだってにこにこしてるよね!? 」
あの時、 すぴかは怖ろしく真剣な表情で聞いてきた。 いや 一方的に宣言した、と言ってもいい。
「 ・・・ え〜 なにがぁ 」
食後の昼寝をして、寝起きが悪くてぼ〜〜としていたすばの耳に姉のきんきん声が
ぼわ〜〜〜ん ・・・ とこだましている。
「 だからあ〜 アタシ達のお母さんは! いつだってにこにこ・・・だよね!? 」
「 う〜ん そ〜かな〜・・・ 朝とかァ 片付けしない時とかァ 怒るとおっかないじゃん。 」
「 それは! アンタが悪いから でしょ! 」
「 すぴかだってソファの背で寝たり〜 冷蔵庫のドア、足でばん!ってやると〜
すぴかさん!! って怒られてるじゃ〜ん 」
「 アンタほどじゃないわよ! ・・・ けど! ねえ ねえ ・・・ アタシ達のお母さんはァ
基本 にこにこ笑顔 だよね? 」
「 基本 ・・・? 」
「 そ! そんでもって。 お父さんとお母さんは ず〜〜っとらぶらぶ♪だよね!? 」
すぴかはものすごく真剣な顔だ。 のそのそ起き上がり、ビスケットを齧りつつ
TVを眺めよ〜かな・・・と思っていてたすばるは迫力負けし半ば条件反射的に こくこく ・・・
と頷いていた。
そう・・・ すぴかとすばる、双子のお母さん、 島村フランソワーズさん は
いつだってどんな時だって にこにこ笑顔 のステキなヒトなのだ。
「 そうだもんね〜〜 ふふふ アタシは気分爽快〜〜 ははは 」
「 なに? すぴか ・・・ なんかあったの? 」
「 うん? ま ・・・ いいさ。 ウチはみ〜んな幸せです〜 ・・・ってコトです。 」
「 ??? なんだよ〜 すぴか。 意味不明 で わらってて ・・・ぶっき〜〜〜 」
「 あは ごめん〜〜〜 ちょっといろいろあってね〜 悲しい顔の絵を見たのさ。
キレイなオンナノコなんけど も〜泣きそう・・・ なの。 」
「 ふ〜〜ん ・・・? 女の子の絵? ・・ 」
「 そうよ、とってもキレイな女の子。 」
「 どこで? 」
「 あ〜 うん とある場所。 地球上のどこか。 」
「 なんだよ それ〜〜 」
「 だからさ 女の子の絵を見たわけ。 そのコがさあ、顔とか髪とかはウチのお母さんに
そっくりなんだけど〜 」
「 お母さんは オンナノコ じゃないよ。 」
「 ムカシは オンナノコだったでしょ! で ね そのコなんだけど〜〜 」
「 悲しい顔してた? 」
「 そ! ぱっと見はねえ あ これお母さんの若いころ? って思ったんだけど〜
よく見るとさ、 オーラがちがうわけ。 」
「 お〜ら? 」
「 そ! お母さんみたく こう〜 きらきらしたオーラがないのよね〜 」
「 へ〜〜〜 そんじゃ お母さんじゃないだろ? べつの誰かの絵さ。
な〜んでそんなにキンキン怒鳴ってるのさ。 」
「 ! アタシは! 怒鳴ってなんかいないよっ ! 」
「 ・・・ほら また怒鳴るぅ〜〜〜 」
すばるは耳を押さえ 大袈裟に顔を顰めてみせた。
「 ふん! アンタが余計なコト、言うからだよ!
まあ いいや。 でもってね、 アタシ的には〜 ウチのお母さんはいつも笑顔 = 幸せ
= あの悲しい顔のコはお母さんじゃない って確信したわけ。 」
「 で 僕にも同意を求めたわけ? 」
「 どうい? 」
「 さんせ〜〜ってことさ。 」
「 あ〜 うん そう! アンタもそう思うよね? ね? ね? 」
「 僕はその絵を見てないもん、わかんな〜い 」
「 だ〜から! アタシの <公式> は正解だよね!? 」
「 公式? あ〜 さっきの? ・・・ まあ そうなんじゃね〜の ? 」
すばるは面倒さそう〜〜に < 同意 > すると TVに集中してしまった。
「 うん、 そうだよね〜〜 そうなんだ〜 うん それならいいや。 」
すぴかは自問自答みたいなコトをしつつ 満足した風だった。
― 悲しい顔をしたオンナノコの絵 は それきり双子の口げんか?の原因になることもなく
いつしか忘れられていった。
すぴかもすばるも そんなコトよりも シャワーみたいに降りかかってくる毎日の出来事を
追いかけるのに夢中の年頃だったから ・・・
お母さんは いつだって笑顔♪ それは 島村さんち の<お約束> なのだ。
十数年後 ―
そのお母さんとらぶらぶカップルのお父さんは 溢れるほどの愛情と山盛りの楽しい思い出を
双子の姉弟に残し ― 去った。
カツ カツ カツ ・・・ コツ コツ コツ ・・・・ 石畳が歯切れのよい音を立てている。
「 うふふ ・・・ なんだかステキねえ? 日本じゃないみたい。 」
「 うん? あ この足音のこと? 」
「 そうよ。 ちょっと足には固いけどこの音 ・・・ 好きなのね〜 」
「 ふうん? 僕 あんまし意識したことなかったなあ〜 」
短い金髪青年と黒髪乙女のカップルが のんびりおしゃべりしつつ散歩している。
男性は容姿は外国人風だが 中身は < 日本人 > らしく、そこいらの若者と同じ話方をしている。
女性は艶やかな黒髪に桜いろの頬 ・・・ ただ声が姿に似合わずしゃがれていた。
この通りはわざわざ石畳を敷いるのだが 異国情緒 とかで若い女性には人気・・・だという。
「 やあだあ〜 だってここ、 すばる君の地元でしょう? 」
「 え 違うよォ〜 僕は神奈川県出身だけど、 もっともっとも〜〜〜っとド田舎。
それも町外れの海っぱたの崖っ淵なんだ。 」
「 ・・・ 海 ? ・・・ お家は漁師さんだったの?? 」
「 え〜〜 そうじゃないけどね。 死んだ祖父サマ ( じいさま ) がさあ 科学者で ・・・
その研究施設も兼ねてたんで 広いけど辺鄙な場所に家を構えたんだって。 」
「 ふう〜〜ん なんだか楽しいわね? 」
「 ・・・ え そう思う? 歌帆ちゃん ・・・ 」
「 ええ。 なんかステキなお祖父様じゃない? 科学者って結構ロマンチストなのよ〜〜 」
「 へえ ・・・ あ 君のお父さん も? 」
「 当たり♪ あ〜〜もし生きてたら結構ウマが合った かも ね? 」
「 あ〜 そうだねえ。 祖父サマはかなり面白いヒトだったからなあ 」
「 ふうん ・・・ ちょっと残念ね 」
「 ま しょうがないさ。 ・・・ でも君と僕がこうして ・・・さ 」
「 そうね。 こういうの、日本だと < ご縁がありまして > って言うのでしょう? 」
「 ははは らしい、ね。 あ ・・・ でも そのう ・・・ あの さ。 歌帆さん。 」
「 はい? 」
「 そのう〜 ・・・ その辺鄙な崖っ淵の家に住むのは ・・・ イヤかなあ。 」
「 え? 」
「 ウン ・・・ 不便な場所は嫌いかなあ。 あの・・・もし 君がイヤなら市内でマンションでも 」
「 え〜〜〜〜 私 その海ッ端のお家、 みたい みたい みたい〜〜 」
「 ・・・ ほんと? マジ すげ〜〜 ど田舎だぜ? 」
「 でも すばるはそこで育って今でも住んでて。 病院まで通勤しているんでしょ。 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 じゃ 私もそこに住みたい。 ・・・ だめ? 」
「 ホントにほんと〜〜にいいのかい? 」
「 ド田舎っても ちゃんと電気と水道とガス はあるのでしょ? 」
「 ウン。 ソーラーシステムでね、ほとんど自家発電さ。 設備はまあ ・・・ かなり整っている かな? 」
青年は すこし考えながら応えた。
・・・ まさか 地下は核戦争にも耐えられるシェルターになってる、とか
鉄壁のセキュリティー を保持 とか ・・・ 言えないよなあ ・・・
封印してあるけど 地下には研究施設もあるし ・・・
「 え〜〜〜 すごい〜〜〜 すごい! ますます住みたくなっちゃった♪ 」
「 ・・・ 歌帆ちゃん。 君ってさあ・・・ 好奇心旺盛というか楽しいヒトだねえ 」
「 そう? だって 新しいコトってわくわくするじゃない?
そっか〜〜 すばる君って そういうトコで育ったのね〜〜 」
「 ウン。 じゃあ 今度見においでよ。 」
「 うわ〜〜 嬉しい♪ あ ねえ ねえ ここ・・・ アンティーク ショップ? 」
黒髪の女性は ぱっと足を止めた。 目の前には 少々古ぼけ雑然とした店がある。
「 ・・・ というより 古道具屋っぽいな。 」
「 ね ちょっと寄ってもいい? 」
「 いいけど ・・・ あんまり掘り出し物はないっぽいなあ〜 」
「 見るだけ よ。 こんにちは〜〜〜 」
チリリン ・・・ とドアベルが鳴った。
そこはすばるの言うとおり < 古道具屋 > に近く、値打ちモノというよりも
やたら古めかしいモノがあれこれ雑然と並んでいた。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ やっぱ大したモノはないな〜 」
「 そうねえ ・・・ あ こっちに絵があるわ。 」
「 絵? まあ ・・・ あまり期待は 」
女性はずんずん奥に入ってゆき ― ぱたっと足を止めた。
「 ん〜〜 なにか見つけたかい? 」
「 ・・・・・・ 」
彼女は 大きな瞳を殊更かっきり見開いて一枚の絵を見詰めている。
彼は ゆっくり近づいていった。
「 なに? ・・・ 肖像画 ? 」
「 ね! 私!! このヒトに会ったことがあるわ!! 」
サワサワサワ −−−− ・・・・
爽やかな海風が 広い舗道を吹き抜けてゆく。
人々はゆっくりと木陰の多い道を行き交っている。
テーブルを舗道近くにまで並べたオープン ・ カフェ もあちこちに見られた。
そんな一角に あの金髪と黒髪のカップルが座っている。
「 でもね、 歌帆ちゃん。 あの絵のサイン、見たかい。 」
「 サイン? ああ ・・・ 下の隅っこにあったけど読めなかったわ。 」
「 僕もそうだけど ・・・ そのとなりに年号が記入してあった。 196〇 ってね。 」
二人は 先ほど古道具屋で見た肖像画について ずっと語り合っているのだ。
「 ずっと昔の絵だ。 あの古びた感じからも 」
「 でもね でもね 私 はっきり覚えているもの! 」
「 白い服の少女 ってタイトルだって店の爺さんが言ってたけど ・・・
由来とかは不明だって。 」
「 あの少女は ・・・ 悲しそうな顔だったでしょ。 私が会った時にはね、
とても厳しい表情だったの。 でも 私には笑いかけてくれたわ。 」
「 ??? なんのことだい? 」
「 あ ・・・ あのね、 あの事故の時! お父様と私が飛行機事故にあった時!
あの時 ・・・ 助けてくれたヒト達がいたって話したでしょう?
赤い不思議な服を着た青年と若い女性だったわ。 」
「 へ へえ・・・? 」
やっば ・・・ 覚えているのか ・・・
ヤバいんでないの〜〜 父さん 母さん〜〜
・・・いや 009 に 003 〜〜
すばるは内心 ひやり、としたがなんとか誤魔化している。
「 その女性が ・・・ あの絵のヒトとそっくりなの! いいえ あのヒトだわ。 」
「 けど あの絵が描かれた年代は ・・・ 」
「 う〜〜ん そうなだけど・・・ でもあんなにキレイなヒトってちょっといないわよ?
じゃあ ・・・ あの絵は彼女のお母さん、とかかしら・・・ 」
「 さ さあ ・・・? 」
「 う〜〜〜ん ・・・ なんとかしてあの絵の作者のこと、調べられないかなあ 〜 」
「 それは難しいかもな〜 だってこんな古道具屋に埋もれてるってことは
そんなに有名なヒトの作じゃないってことだろ? 無名の画学生の修作かもしれないし。 」
「 あれは修作ではないと思うけど ・・・ 描いたヒトの気持ち、感じるもの。 」
「 ふうん ・・・ じゃあ値段、聞いてみるかい。 」
「 ・・・ う 〜〜〜〜 ? 」
歌帆はしばし額にシワを寄せて考えこんでいた。
「 ・・・ いい。 買っても後悔しそうだから。 」
「 気になるんだろう? 滅茶苦茶に高価じゃなければ買ってもいいさ。
それで・・・ ウチに飾るか? 」
「 え〜 それは出来ないわ。 ・・・ あのコが望んでいない気がする。 」
「 なにか感じるの? 」
「 う〜〜ん ・・・ よく わからないんだけど。 あの絵は誰かを待っている気がするのよ。 」
「 ふうん? 」
「 だから一回でも眺められて幸せ ― そんな気がするの。 」
「 そうなんだ? それじゃ ・・・ さ。 あの ・・・ あの絵の替わりに ・・・さ。
そのう 〜〜 ナンだ・・・ え〜〜 」
青年は もごもごと口篭りもじもじしている。 俯いたり足踏みをしたり、落ち着かない。
「 ?? どうしたの、すばる君 ・・・ あ! 御手洗? 」
「 ! ち ちがうよ〜〜〜 ( なんか すぴかに似てるなあ〜〜 )
あの! あの絵の替わりにさ 歌帆ちゃん 君がウチに来てください ! 」
「 はい。 」
女性はごく普通に返事をしてにこ・・・っと笑った。
「 ・・・ へ??? 」
「 だから いいわ、って言ったの。 私、すばる君の 海ッ端の崖っ淵のお家 に行きたいわ。
ええ そこで暮しましょう。 」
「 ・・・ う うん ・・・ 」
ちぇ〜〜〜 おいおいおい〜〜〜
島村すばる 一世一代の ぷろぽ〜ず だったんですけど??
・・・ 女性って ドライなんだなあ 〜〜
「 き〜まり♪ 一軒家に住めるなんて〜〜 最高♪ らっき〜〜〜♪ 」
可笑しなすばる ・・・
だから新居は そこでいいって言ってるのにね?
な〜にを今更 真っ赤になってるのかしら ・・・
すばるって ほっんとうに可愛いなあ〜〜
歌帆はもうとっくにすばると共に人生を歩く決意をしていたので 気分爽快なのだ。
生来口の重いカレシのこと、もごもご回りくどいことを言うのは カワイイ と感じていた。
(実は〜〜 すばるは 彼女に面と向かってはっきりと < 結婚 > を言ってなかったのだが)
・・・ よって。 すばるの < 一世一代のプロポーズ > はいつもの何気ない普通の会話、
としか聞こえなかったのである。
すばる はやっぱりというか正真正銘 ジョーの息子であるという事実を遺憾なく発揮していた。
「 ・・・ こんちわ〜〜 」
歌帆を送っていった後、すばるはあの古道具屋にもう一度足を運んだ。
「 ・・・・・・ 」
店主は相変わらず無愛想にじろり、と青年を見ただけだ。
「 ちょっと ・・・もう一回みせてください。 気になる品があって〜 」
すばるは言い訳みたいに繰り返しつつ 店の奥に ― あの絵の前に行った。
そうだよ〜〜 チビの頃に すぴかがきんきん言ってた絵って ・・・
コレだったんだあ〜〜
帰宅して 不意に少年時代の姉弟喧嘩が蘇ったのだ。
ねえねえ! お母さんはさ いつだってにこにこ だよね!
気の強い姉が あの時はすばる相手に珍しく少し泣きそうになりつつ繰り返していた。
「 ・・・ あ ・・・ そ〜いえば。 絵がどうの、 悲しい顔がどうのこうの ・・・って
言ってたよなあ・・・ 」
その時、 すばる自身は実際にその肖像画を見ていなかった。
今更 姉に確かめたとしても 彼女も恐らく覚えてはいないだろう。
やっぱ もう一回じっくり見ておかないとなあ ・・・
彼はそれで引き返してきたのだ。
あまり上等ではない額縁に収まったその絵は いわゆる <名作> ではないと思われる。
隅にごちゃごちゃ記してあるサインは年号の数字以外は全く読めない。
白いドレスを纏った彼女は 相変わらず淋し気にすばるを見ている。
「 ・・・ うわ〜〜 改めてじっくりみるとさあ ・・・ 似てる かなあ。
これは母さんの若い頃 ・・・ か? ジャン伯父さんと居たころかも。
う〜ん ってか すぴかに似てるなあ ・・・ ( 見た目だけ ) まあ 当然だけど。
でもなあ 母さんがこんな顔、してた記憶はないな。 うん ・・・ 」
彼の記憶に残る お母さん は 不思議と笑っている顔しか ない。
実際にはいつも笑ってばかりじゃなく、 母にはよく叱られた。
のんびり屋の彼は特に幼少時は いつも 早く 早く 早く! という母の小言に
追いまくられていた。
宿題やら約束を忘れたりすれば 当然叱られたし、結構怖い母でもあった。
― しかし 大人になった今、 記憶の中の母はいつも笑顔 なのだ。
「 美人は得だねえ 母さん。 いつまでも若くて いいなあ・・・
・・・ 元気 かなあ・・・へへ 相変わらず親父といちゃいちゃしてるのかなあ〜〜 」
悲しい顔の肖像画をながめつつ すばるはにこにこしている。
「 ・・・ ねえ 母さん。 僕 ・・・ 今度嫁さん、もらいます。
あは・・・ もう知っているんだろ? うん、さっきの女性 ( ひと ) さ。
ミッションで会ったんだって? 助けてくれたって言ってるよ。
え〜〜 と、 その際はありがとうございました〜〜〜 」
じっと見上げれば薄いぐらい照明の下、彼女の表情がすこし変わった風に思えた。
「 彼女、 そのこと、覚えてるみたいなんだ。 だから ・・・ しばらくは
母さん ・・・ 父さんとそっちでイチャイチャしててくれよな 」
「 うん、 僕たち、聞き分けのいいコドモだから。 ちゃ〜んと見て見ないフリ してやるからさ。
相変わらず ちゅ〜〜〜ってやってるんだろ? あは ・・・ 親父に宜しく♪ 」
すばるは 古ぼけた肖像画に向かって に ・・・っと笑った。
「 ど〜も〜 お邪魔しましたァ〜〜 」
古い肖像画を見に来た青年は 明るく挨拶をして出て行った。
彼を見送り老店主は ぶつぶつ呟く。
「 ち ・・・ なんだ〜〜 わざわざ引き返してくるから 買う気なのかと思ったのに ・・・
まあなあ・・・ この絵はどうも験が悪いやな。 眺めてて滅入ってくるもんなあ
次のフリマにでも出しちまうか ・・・ 」
溜息をひとつ ふたつ。 よっこらせ・・・と彼は伸び上がり、その絵を壁から外した。
いっしょに 来ない ? 誰もその声を聞くことはなかった。
§ ジョー ・ 再び
気をつけて。 一人で大丈夫かい? 一緒に行こうか 携帯は持ってるよね?
ジョーは相変わらず同じ言葉を繰り返し ・・・ やっとなんとか < ひとり > にしてくれた。
― カッツン ・・・ 足の下で 舗道が少し硬く感じた。
「 ん〜〜 ・・・ 大丈夫。 まだちゃんと歩けるわ。 」
とん・・・と足を踏み鳴らし、 その女性はゆっくりと歩き始めた。
ふわり ふわりと春の風が吹きぬけてゆく ―
「 う〜ん ・・・ やっぱり外は気持ちがいいわ。 ・・・この季節 大好きよ ・・・ 」
若い緑を揺らす風に 煌く亜麻色の髪を流しつつ その女性は空を見上げる。
水色の空を映す瞳は碧く輝く。
「 よかった ・・・ こんな日に外出ができて ・・・ ありがとう 風さん ・・・ 」
薄い水色の裳裾を風に遊ばせつつ彼女は歩いてゆく。 一歩 一歩 踏みしめつつ・・・
「 ・・・ っと ・・・ どうしても行ってみなくちゃ。 ねえ ・・・? 」
表通りから外れて少し行くと、 市の美術館が現れる。
「 ・・・ ああ こんなところにいるのね? ふふふ いい隠れ家かもねえ ?
よい ・・・ しょ ・・・っと。 」
彼女はしごくゆっくりした ― 少々危な気な ― 足取りで 建物の中に入っていった。
ジョーとフランソワーズは懐かしい岬の我が家から <去った> 後、 二人は数年間は
外国で暮す予定にしていた。 アメリカ西海岸の都市や パリやロンドンも視野にいれていた。
どの地でも 若い婚約者同士 または 新婚ほやほやの若夫婦 として過す予定だった。
実際に ロサンジェルスには 一番長く住んでいた ・・・ 穏やかな気候の地で広いフラットを借り
その地域にすこしづつ溶け込み始めていた。
「 ― 日本に ・・・ いや、 トウキョウかヨコハマに 引っ越そう。 」
ある日、ジョーが唐突に言った。
「 ? ・・・ なにか あったの? あ あの子たちに・・・? 」
フランソワーズは始め怪訝な顔をしていたが すぐに真剣な顔になった。
「 あ そういうことじゃないんだ。 コドモ達のことは関係ないよ。 」
「 そう? ・・・ それならいいけど。 でも なぜ? 」
「 ふふふ ・・・ 理由はきみが一番よくわかっているのじゃないかな。 」
「 ・・・え? 」
「 さっきすぐにすぴかやすばるのことを気にしただろう? 」
「 ええ ・・・ 離れてしまっても親なのよ、当然でしょ。 」
「 そうだよね。 だから せめて今少しの間 ・・・ そうだなあ、二人がちゃんと身を固めるまで
そっと見守ってやろうかなあ と思うんだ。 」
「 え ・・・ 本当? だって わたし達 ・・・ もう ・・・ 」
「 ああ 勿論子供達とは < 別々の人間 > として暮らす。
それに ちょいと気になる事案があって ね。 小さなミッションになるかもしれない。 」
「 そう ・・・ 久々ね。 」
「 そうだね。 それからイワンからも言われたのだけど。
博士の研究の成果をきちんと残しておきたい。 埋もれてしまうには惜しいものが沢山ある。
これからの世の中のためにも、 ね。 それと トウキョウやヨコハマ が ぼくたちが
一番目立たずに暮してゆけるからさ。 」
「 ・・・ ここではダメなの? 」
「 少しこの地に馴染みすぎたようだよ。 ・・・ 残念だけど ね。 」
「 そう ・・・この街、案外気に入っていたのだけど ・・・ でもまた日本に戻れるのは嬉しいわ。 」
「 ふふふ < 戻る > か・・・ 日本はきみの故郷? 」
「 そうよ わたし、人生の中で一番長く暮したのがあの家なんですもの。
そして一番幸せは日々を送ったわ ・・・だから あの町が あの家がわたしの故郷よ。 」
「 ぼくも さ。 ― それじゃ引越し決定だ。 」
「 了解〜〜 引越し じゃなくて < Uターン > っていうのでしょ。 」
「 あはは 原点回帰 かな。 おっと ミッションも絡むと思うので気を引き締めよう。 」
「 了解。 仔細なデータが解り次第、補助脳に送って。 」
「 了解 」
二人は きびきびと < 仕事 > に取り掛かった。
ひっそりとヨコハマに移り住み その後小さなミッションがいくつかあった。
赤い特殊な服を纏ったサイボーグ戦士達な密かに活動し 無辜の人々を護った。
そして遠くからそれとなく子供達を見守っていた。
すぴかもすばるも 悪戦苦闘しつつも逞しくそれぞれに人生を歩いて行く。
やがて ― ジョーとフランソワーズの息子は 一人前の医者となり、伴侶を得、
作家となった娘は少し遅くなったが幼馴染と一緒になった。
子供達の幸せな行く末を見定め二人は安堵し、 静かに去った。
ほぼ平穏なうち年月は流れてゆく。
サイボーグ戦士達が一同に揃って活躍する機会も すでにほとんど無くなっていた。
やがて 年齢順 というわけでもないがグレートと大人は 活動を停止した。
― さらさらと 年月は流れる ・・・
古い港街の外れに 少し古びた洋館が建っている。
そこにはひっそりと若い夫婦が住んでいたが なにせ辺鄙な場所なので周囲の人々は
ほとんど気に留めていなかった。
「 ・・・ あ ・・・? 」
「 やあ ・・・ 目が覚めたかい。 気分はどう? 」
「 ・・・ ジョー ・・・? 」
「 そうだよ、フランソワーズ。 ね 気分は? 頭痛はないかな。 」
「 ええ ・・・ まだちょっと眠いけど ・・・ 気分は悪くないわ。 」
「 よかった ・・・ 約束通り、 桜の季節に 起こしたよ。 」
「 ・・・ まあ ・・・ もうそんな時期なの? 」
彼女は ゆっくりと顔の向きを変えた。
ふわり ・・・ レースのカーテンがゆれる
「 桜 ・・・ もう咲いているの? 」
「 まだ蕾だけど。 そうだな〜 満開の頃には散歩に出られるよ きっと。 」
「 そう ・・・ それなら嬉しいわ ・・・ 」
「 すこし起きてみる? 」
「 ・・・ ええ お願い ・・・ 」
枕の位置を変えてもらい 彼女は半身を起こし寄りかかる。
細く透き通るような白い腕を そっと窓に翳す。
「 ・・・ ああ ・・・春の空気 ね ? 風が春を運んでくるわ 」
「 うん、ここ数日で随分暖かくなったんだ。 きみの目覚めを歓んでいるよ。 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
すう・・・っと微笑むその顔は 相変わらず美しい。 ジョーはしばし見惚れてしまう。
「 すこしなにか食べてみるかい。 」
「 ・・・ 暖かいものが飲みたいわ 」
「 あは じゃあミルクだな〜 」
「 あら ・・・ カフェ ・ オ ・ レ はだめ? 」
「 一人で起きられるようになってから さ。 目覚めたばかりなんだ、 ミルクで我慢しろよ。 」
「 赤ちゃんみたいねえ ・・・ まあいいわ。 お願い 」
「 うん ちょっと待ってて 」
ジョーはブランケットを掛けなおすと 寝室を出た。
この数年、 フランソワーズは覚醒と昏睡の時期を繰り返している。
彼女の生体部分の劣化に伴う全身の不具合を 少しでも緩和させるための策だった。
メカ部分の劣化であれば何とか補修ができる。 しかし生体の劣化 ・・・ つまり老化を
防ぐことは 出来ないのだ。
・・・ あと 何回、 彼女は覚醒できるだろう ・・・
ジョーは 彼女が < 目覚める > たびに 心の内で辛吟していた。
今回、フランソワーズは奇跡的と言ってもいいほど、順調に覚醒しすぐに日常生活に
馴染み始めた。
家の中からゆっくりと 外へ ― ジョーと一緒に散歩に出られるようになった。
「 公園にでも行ってみるかい。 あ やっぱり車で ・・・ 」
ジョーは彼女に腕を貸しつつも はらはらしている。
「 大丈夫よ ちゃんと歩けるわ。 そうねえ ・・・ 博物館に行きたいわ。 」
「 市立博物館かい? 」
「 ええ 市民絵画展をやっている ・・・って タウン・ペーパーで見たの。 」
「 いいよ それじゃ ・・・ ゆっくり な。 」
「 ありがとう ジョー ・・・ 」
二人は寄り添い ― 傍目には熱い恋人たちがいちゃいちゃしている風にみえていた ・・・
絵画展をゆっくりと巡り、 笑いあい冗談をいいつつ楽しい時をすごした。
「 ずいぶん沢山の作品があるのねえ ・・・ 」
「 市民画家にとっては自作が博物館に展示される なんて一世一代のことだものね、
きっと皆 張り切って描いたんだよ。 」
「 そうねえ ・・・ あら ・・・ あちらには古い作品も飾ってあるみたいよ? 」
案内を見つつ 彼女が足を向ける。
「 ・・・ 大丈夫かい? 今日はもう随分歩いているけど ・・・ 」
「 大丈夫。 なんだかとても気分がいいの。 あら きれいな肖像画があるわ
ほら こっちよ ! 」
フランソワーズは ジョーの手を離すと ぱっと駆け出した。
「 ! 危ないよ ・・・! あ ・・・ ほら〜〜 」
カツン ・・・! 小さな段差に躓き 彼女はすとん、と転んでしまった。
「 ・・・ あ〜〜ん ・・・ 」
ジョーは慌てて抱き起こす。
「 大丈夫かい? 頭を打ったりしていないね? 足は? 」
「 ・・・ ん〜〜 平気よ。 ちょっとオシリが痛いけど ・・・ 」
「 さあ もう帰ろう。 いきなりお転婆にしすぎだよ、きみは。 」
「 え もう? だってまだ ・・・ 」
「 また 来ようよ。 そしてゆっくり見て歩こう。 桜が咲き始める頃にはきっと体力も
回復しているだろうし ね? 」
「 ・・・ そう ねえ ・・・ じゃあ そうするわ。 」
「 あ〜 イイコだね。 じゃ 帰ろう。 」
「 ジョー! 降ろしてよ〜〜 皆が見てるわ〜〜 」
「 え ・・・ でも 」
「 大丈夫 ゆっくりなら歩けるわ。 ・・・ 転んで足を挫いたって設定にしましょう。 」
「 ・・・ いいけど ・・・ 」
ジョーはフランソワーズを支えつつ、通路を戻って行った。
ん〜〜 残念〜〜! また来るわね ・・・!
フランソワーズは 目の端に残る肖像画にそっと挨拶を残した。
そして 桜の蕾がチラホラ ・・・と開き始めた頃 ― 彼女は再び博物館を訪れた。
― 今度は 一人で。
カツ −−− ン カツン カツン ・・・
平日の昼間、館内にヒトの姿はほとんど見られなかった。
「 どこだったかしら ・・・ え〜と ・・・ ? 」
ひんやりした空気に 少しほっとして彼女は立ち止まった。
「 この前来た時 ・・・ どっちに曲ったっけ? ・・・ う〜〜ん 忘れてしまったわねえ・・・
え〜と ・・・ あ! そうよ、 市民コーナー。 確か そんな場所だったわ。 」
やっと思い出し また歩き始めた。
いわゆる < 名作 > のコーナーを通りすぎ かなり奥の方まで足を運ぶ。
「 ・・・ 多分 ここ だったかなあ ・・・ ああ 記憶機能はもうダメねえ ・・・ 」
ぶつぶつ言っている彼女を 気にするヒトはいない。
< 市民コーナー > は ほんの一角だったがごたごたと作品が展示してあった。
所狭し、と言う感じである。
「 そうそう ここよ! ・・・ あ ・・・ これ ・・・ 」
― カツ。 彼女の歩みが止まった。
「 ・・・ こんにちは。 また来たわ 」
彼女は一枚の絵の前に佇み 明るい声で話かける。
「 ねえ まだ悲しい顔してる ・・・ どうしたの? 一人だから淋しいの?
あら・・・でも小さな子が後ろに見えるわ。 彼女と遊んであげたら ? 」
じっと < 見下ろしている > 少女 と 朗らかな笑顔で語りかける女性 と ・・・
ぱっと見ただけならば姉妹か母娘 ・・・と思うだろう。
「 あなた ず〜っと悲しい顔をしているのね。 そんなにキレイな姿のまま
何年も何年も生きてきたのに ・・・ 悲しい顔ね。
殺されてしまった ・ わたしの 身体 さん ・・・ 魂を探しているの? 」
「 ・・・・・・ 」
「 ね? ちょっと笑ってごらんなさいな。 それだけでも少しは楽しくなるものよ。
・・・ ああ やっぱり似ているわねえ・・・ 子供達とは <会った> のでしょう?
ふふふ ・・・ あの子達、なんと言ったのかしら 」
「 ・・・・・ 」
< 白い服の少女 > は相変わらず華麗な衣裳を見に着け 悲しい顔で座っている。
・・・ ふううう ・・・ フランソワーズは小さな溜息をもらす。
「 ・・・ 疲れたわ。 ココまで来るのがやっと なの。 もう お終いなの。
ねえ あなた ・・・ わたしはもう ・・・ 行くけど。
あなたはもう少し ・・・ ジョーのことを 見守っていてね ・・・
・・・ さあ 今日は帰らなくちゃ ・・・ ジョーが心配しているから ・・・ ね ・・・ 」
煤ボケた油絵の具の中で 白い服の少女はたおやかに微笑んでいた。
「 そう ・・・ そうやって笑っているほうがずっといいわ ・・・ さよなら ・・・ 」
― 春爛漫 花吹雪舞い散る日に。 一人のまだ年若い女性が静かに眠りについた。
さらさら さらさら ― 年月が流れ 人々は去ってゆく ・・・
シュ ・・・ ・・・・! プヮン ・・・!
賑やかな音を撒き散らし、 軽量の車が行き来している。
車の形こそどんどん軽快になってゆくが 道路の混雑はいつの時代にも軽くはならない。
「 う〜ん ・・・ くそ ! 」
ジョーは忌々しげに呟き 溜息をつきつきブレーキを踏む。
キキキ −−−−−!
ひときわ軽快な車は きっちりと追い越し車線の前で止まった。
「 ふう ・・・ ったくなあ ・・・ 混雑の緩和ってのは永遠に解決しえない難問なのかよ? 」
ジョーは もう一回思いっ切りブレーキを踏み込むと 車を片端によせた。
「 ここでいいや あとは歩きだな。 」
よっこらせ、と外に出てドアをロックし、 彼はぷらぷら ・・・ 歩き始めた。
「 ・・・ ここは どこだったっけ ・・・・? 」
時々意識障害が出るようになった。 記憶機能も稼働ミスが多い。
「 ま しょうがないよなあ ・・・ もう充分以上に <動いて> きたんだもの。
ねえ フラン ・・・ そう思わないかい。 」
彼は空っぽの傍らに ぶつぶつと話しかける。
「 今日はねえ なんだかきみが呼んでいるみたいな気がして さ・・・
久々にこの街を訪ねたんだけど。 ああ 散歩 なんて本当に何ヶ月ぶりかなあ・・・ 」
かつて石畳が敷かれていた街は <石畳模様の> 動く舗道が走っている。
「 ふん ・・・ コレがあるからなんとか出かけられるのかもな よ・・・いしょ ・・・ 」
ジョーは 最愛の存在を失った後も生き続けた。
仲間たちも 一人去り 二人去り ・・・ もう かつて赤ん坊だった人物 が残っているだけだ。
ジョーは 一人で生きてきた ずっと ずっと。
「 え〜と ・・・ どこだっけ? このごちゃごちゃした通りの外れ ・・・ だったかな 」
青年の姿のまま、彼は一軒のアンテイーク ・ ショップで に入った。
「 やあ ・・・ ここにいたんだね。 」
一枚の絵の前に ずっと佇んでいる青年に 店員が声をかけた。
「 お客様? これは古い絵なんですよ〜 今時とは描き方から違っているのです。
そんな意味でも価値があるのですが ・・・ お好きですか? 」
「 あ いえ ・・・ ちょっと知ってるヒトに似てるもんで 」
「 この 白い服の少女 が ですか? 」
「 ええ ・・・ 随分とその ・・・ 服装が ・・・ 」
「 はい、時代がかったドレスですが 描かれた当時は令嬢の普通の装いだった、と聞いています。」
「 ・・・ 令嬢? ・・・ 本人が吹き出すかもなァ・・・・ 」
「 はい? 」
「 いえ ・・・ あの それでこの作者は ? 」
「 さあ ・・・ よく解らないのです。 隅に記入してあるサインと年号から調べても
解りません。 この絵はかなり方々を転々としてきたようです。 」
「 そうですか。 じゃあ ・・・ 彼女の旅も ・・・ 今日でお終いです。 」
「 は? 」
「 これ ・・・ 届けてもらえますか? 」
「 ご購入くださるんで? はい〜〜 それはもう〜 すぐに手配いたします〜 」
店員は大喜びで足早に店の奥に引っ込んだ。
「 ・・・さあ 一緒にウチに帰ろう ・・・ 」
青年は ぶつぶつとその肖像画に話しかけていた。
― ガタン。
「 ・・・・っと〜〜 これでいいか ・・・ ふう ・・・・ 」
ジョーは大息を吐き 壁の絵を見上げた。
さっき届いた肖像画を 大苦労して梱包を解き、またまた大奮戦して壁に掛けた。
「 ・・・ ああ こんな簡単な事するのも やっと・・・なんだ。 ふふふ ぼくもね
もういい加減耐久年数を超えてしまったのさ ・・・ 」
最新式、といわれた最後のゼロゼロ・ナンバーサイボーグは 苦笑する。
「 さて と。 ああ ・・・ 相変わらずきみはキレイだなあ ・・・
うん 少し笑うようになったんだね? ・・・ 子供達はどうしてる?
み〜んな もうそっちに行ってしまったものなあ ・・・
・・・ リーザ ・・・ そう、そんな名前の小さな子もいたなあ・・・ そっちにいるよね? 」
ふうう ・・・と溜息をつくが そこにはもう哀しみの色はない。
「 ・・・ きみが恋しいよ きみが好きだよ きみに会いたいよ ・・・・
こんなに長い間生きても きみが一番なんだ。 きみしかいない ・・・
ねえ フランソワーズ。ぼくがこんなにきみを愛してるって ・・・ 知ってたかい? 」
がらん・・・とした洋館の一室で ジョーは熱い想いを語る。
彼のぼそぼそした声だけが 広い室内に響き ・・・ 外にはただ風が吹きぬける。
― いっしょに ゆきましょう ジョー ・・・!
「 ああ! ・・・ やっとぼくの順番になった らしいよ ・・・ 今 そこにゆくから ・・・
イワン ・・・ 後を た の む ・・・ 」
チカリ。 彼は鈍く輝くモノを懐から取り出すと ― 頭に当てた。
今 行くよ。 フランソワーズ ・・・!
一条の光線が部屋を貫くと 青年はゆっくりと絵の前に倒れた。
・・・ その整った顔に安堵の微笑みと浮かべつつ。
動かなくなった古ぼけたサイボーグに < 白い服の少女 > が満面の笑みをなげかけていた。
その夜 町外れの荒地に落雷があった。
翌朝 人々が気がつきやって来たときには 黒々とした焼け跡が広がっているだけだった。
******************************** Fin. *********************************
Last
updated : 31,12,2013.
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************ ひと言 ***********
一回 飛びましたけど ・・・ やっと終りました。
彼らは こんな風に静かに去ってゆくのではないかな・・・と
いや そうあって欲しい、と願うのですが・・・